翌日の夕方。
風呂場の入り口の扉があいており、長男の博(しおつかこうへい)が中を覗いている。中から母照子の弟、幸太郎(中尾隆聖)の声が聞こえる。
喪服姿の幸太郎の妻、登美子(鶴ひろみ)が台所でお茶を入れている。博の妻、早紀(相原美奈子)はぬれ縁に座り、幸太郎の話を聞いている。
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幸太郎 夜中の2時頃さ、、、健志君から電話があって、、もうびっくりして慌てて来たんだよ。
風呂場が離れにあるじゃない。温度差が大きいと心臓によくないんだよな。姉さん狭心症で医者通ってたし、血圧も高かったから。
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登美子 あなた、お茶。
幸太郎 うん。
早紀 すいません。
幸太郎 ゆうべは兄さん遅かったみたいで、なかなか連絡とれなくて、あれ、3時頃だったか?
登美子 うん。
幸太郎 ようやく帰ってきて。それから葬儀社に連絡して、、そしたら、先に来たのは警察だよ。
博 警察?
登美子 病院じゃない場所で亡くなった場合、一応警察の事情聴取があるんだって。
早紀 そんなときに事情聴取って。
幸太郎 馬鹿馬鹿しい話だよ。
登美子 可哀想に、健志君、こと細かく質問されて。
幸太郎 そのうち、兄さんがおまえら健志を疑うのかって、ものすごい勢いで怒鳴りつけて。
登美子 危うくお兄さんの方が公務執行妨害で捕まるとこだったわよ。
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幸太郎 まあ、でも、博が早く帰って来てくれて良かった。
登美子 会社、六本木ヒルズにあるんでしょ。大したもんよねえ。
博 いえ、今は品川です。
登美子 あら、大したもんよねえ。
博 IT関係は、今ヒルズからどんどん撤退してるんですよ。
登美子 そう、大したもんよねえ。
幸太郎 博が東京で頑張ってるから兄さんも安心だ。
博 いえ、そんなこと、
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そこに幸太郎と登美子の娘ゆかり(二木咲子)とその恋人、海老原省吾(和田太美夫)がやってくる。
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ゆかり この度はご愁傷様です。
博 お忙しいところありがとうございます。
幸太郎 おい。
ゆかり 何?
幸太郎 そちらは?
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ゆかり 海老原省吾さん。一緒にきてもらったの。
登美子 一緒にって。
幸太郎 海老原さんとはどういう、、、
ゆかり 後で話す。先におばさんの顔見に行かないと。
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幸太郎 なんだあいつ。
登美子 まさかとは思うけど。
幸太郎 いやそれはないだろ。
登美子 わざわざ葬式につれてくるのよ。
二人の様子を見に行く幸太郎と登美子。
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博 昔よくしかられた。冷蔵庫開けたり閉めたりしないって。
早紀 そう。
博 孫の顔も見せてやれなかった、何も親孝行してあげられなかった。
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そこに隣近所に住む谷ヨシノ(麻生美代子)と孫の真由美(郡司みわ)がやってくる。ヨシノは昭和歌謡曲大全集を持って歌っていたが。
ヨシノ 昭和が終わりましたな。
真由美 この度は御愁傷様です。少し早いかと思ったのですが、おばあちゃんがどうしてもと。
博 どうぞこちらから。
二人を案内する博と早紀。
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健志が現れ外のトイレいく。
海老原が現れ、庭をブラブラする。竹ボウキで遊んだりしている。トイレから出てきた健志と海老原顔合わせる。健志、風呂場へ。
そこへ幸太郎、登美子、ゆかり親子が戻ってくる。
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幸太郎 そもそも、いくつなんだ。
ゆかり 48、あれ?49になった?
海老原 うん。
登美子 私とタメ?
幸太郎 どこで知りあったんだ。
ゆかり グァム。
登美子 え?現地の人?
ゆかり ちがうわよ。
幸太郎 仕事は何を。
ゆかり 何て言えばいいのBB?
幸太郎 何がBBだ!
海老原 BBはBBキングのBBです。私、京都でブルース歌ってまんねん。
幸太郎 ああ、京都の美大になんかにやるんじゃなかった。
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奥田忠義(内海賢二)が裏から現れる。
登美子 お兄さん!
忠義 うん。
登美子 どこいってたんですか。
忠義 ちょっとな。
幸太郎 もうすぐ和尚さん来ちゃうよ。
忠義 わかってる。
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忠義 黒の靴下どこにあるんだ。
登美子 私、みてみましょうか?
忠義 悪いね。ちょっといいかな。
登美子 早紀さん、後お願い。
早紀 はい。
登美子、忠義、奥の部屋へ。
幸太郎 そうだ、座布団出さないと。
博 忘れてました。押し入れのしたの段にあるとおもうんですけど。
幸太郎、博、奥の部屋へ。
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早紀、あたりを見回し、誰もいないことを確かめ、登美子の煙草を頂戴し、吸う。
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ぬれ縁から外に出て、かたを叩いたり伸びをしたりする。
その時、風呂場でドンと音がする。
健志の嗚咽が聞こえる。
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登美子 ねえ、健ちゃんどこいったか知らない?
早紀、風呂場を見る。登美子も見る。健志の嗚咽はさらに大きくなり、ドンドン叩く音が聞こえてくる。
早紀と登美子、どう声をかけていいかわからない。
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